いま何かをがんばっている人に読んでほしいマンガ「帯をギュッとね!」を紹介します。(追記あり)
スポーツマンガは数多くあり、いくつかの系統に分けられます。巨人の星に代表されるスポ根もの、あだち充が得意とするラブコメもの、テニスの王子様のような必殺技ものなど。
僕が一番好きなスポーツマンガはその全ての要素を満たしつつ、どのジャンルにもはてはまらないような気がします。そのマンガは柔道を題材にした「帯をギュッとね!」です。有名な作品ですが、とにかく好きなので紹介します。
「帯をギュッとね!」
普段の練習風景を見ているだけで楽しい
「帯をギュッとね!」は全30巻という長期人気作品です。しかしながら、この漫画には奇抜なキャラクターも突飛な必殺技も登場しません。5人の高校生の柔道部での3年間、その成長物語、それだけです。
(昇段試験の会場で出会った中学生時代の5人。春には同じ高校に通うことになる)
5人が入学した浜名湖高校(通称「浜高」)には柔道部がないというお決まりの展開。しかし、それが部活にありがちな上下関係を排除することになりました。爽やかなストーリー展開で女性人気も高かったです。
主人公の恋愛要素は薄めだが
この漫画の主人公・粉川巧にははじめから恋人・近藤保奈美がいます。これは最終巻まで特に進展することもなく、また波風が立つこともなく続きます。
(「帯をギュッとね!」でもっとも過激なシーンはこれだ!)
※追記にて訂正しております。
主人公よりも周囲の恋愛模様がさまざまあり、それも楽しく、コミカルに描かれています。
(杉と宮崎が憧れていた別所さんと斉藤が文通をしていたことがバレた翌日の練習風景)
恋愛色の濃い描写はありませんが、素朴な学生の微笑ましい恋模様を見ることができます。
柔道描写は超リアル!
作者の河合克敏氏は柔道経験者で、コミカルな描写の中にも柔道はリアルに展開するのもこの漫画の魅力です。これは柔道をやっている人から見てもまったく違和感がなく、むしろとても参考になります。また柔道の一部分かりづらいルールについても丁寧に解説されており、柔道をまったく知らない人も楽しめる内容になっています。
(西久保コーチが大外刈りに悩む杉に指導する場面。実際に柔道ではよくある場面で、実戦でもつかえるテクニックである)
スポ根ではない「楽しい柔道」を目指す
この漫画のもっともすばらしいところは、学生時代に何かに熱中していた人なら誰もが経験する「壁」を「とにかく練習する」以外の方法で解答を示したところだと思っています。
全国大会のベスト8にまで進出した浜高メンバー。しかしメンバー間で考え方の違いが生まれてしまいます。
斉藤と対立する杉。それに対して意見を求められた巧が「楽しくやりたい」と発言したことに斉藤は落胆し、出て行ってしまいます。
しかし、巧の真意は違いました。巧は苦しい練習を長く持続させるために楽しくやることを斉藤に提唱します。
誤解がとけた斉藤と巧はスポーツ科学の勉強を始め、練習方法の改革を他のメンバーに提案します。それは毎日長時間猛練習するのではなく、科学的なトレーニングを導入することでした。
こうして5人は目標を新たに日本一を目指すことになります。
単行本26巻のおまけ4コマ漫画で、作者の河合克敏氏は女子プロレスラーの神取忍のおっかけをしていると語り、以下のように書いています。
「神取忍はレスラーになる前、柔道の選手だった。日本一に3回もなっている。柔道時代の彼女は驚くべきことにトレーニングの内容やスケジュールなど、ほとんど自分一人で考え実践していた。これといった師ももたなかったという。(一部略)浜高の楽しく柔道やって強くなろうというところは彼女のそういう記事を本で読んで考えさせられて書いたことだった。彼女から受けた影響はすごく大きいのだ」
この後も、浜高メンバーはやみくもに練習時間を増やすのではなく、どうやったら強くなれるのかを自らで考えながら密度の濃い練習を行う場面が描かれています。指導者である西久保コーチもこれを尊重し、協力しています。これは高校生の部活にとって一つの理想形だと思います。
実現可能な必殺技!
「帯をギュッとね!」内でもいくつか必殺技が出てきます。初期の頃は少々突飛な必殺技もありましたが(ヴァン・デ・ヴァル投げなど)、中盤になるとそういったものはなくなり、よりリアルな試合展開となりました。そして終盤になると浜高メンバーは「裏技」と呼ぶ、必殺技の習得へ向けて練習を開始します。例えば、宮崎の裏技。
柔道をしらない方には分かりづらいかもしれません。これは持ち手が逆の一本背負いです。
実はこれはアマレスの技なのです。一本背負いと似ているとはいえ柔道選手には馴染みがなく、いきなりやられると対応策がわからないはずです。
その他にも三溝の立ち関節からの体落としなど、トリッキーではありますが、柔道技を少し工夫した実現可能な技ばかりです。実は僕は柔道部だったのですが、実際にすべての裏技を試したことがあり、全て再現できました。実戦でも使えなくはないと思います(あくまで使えなくはないレベルですが)。
このマンガには空想的な技はまったく出てきません。「裏技」は実際にある何かをヒントにして改良しあた技ばかりです。それでも読者はそれを必殺技だと認識し、そして興奮します。これは作者、河合克敏先生の技量だといえます。これは後に競艇を題材にした「モンキーターン」でも発揮されます。
背負い投げをしたくなるマンガ「帯をギュッとね!」
僕は高校時代、練習が嫌になるとこのマンガを読み返していました。実はいまでもたまに読み返します。あの頃、全国大会に出場するためにがんばっていた自分を思い出せるからです。もう20年も前の作品なので、トレーニング理論や考え方も少し古くなってしまいましたが、それでも自ら考えて強くなることを実践する浜高のメンバーを見ると今でもがんばろうという気持ちになります。ぜひ今の高校生にも読んでもらいたい作品です。
おまけ
河合克敏さんの最新作「とめはねっ!」に帯ギュッのキャラが出てきたようで、ファンのみなさんが盛り上がっていました。こういうのうれしいですよね。
ではまた。
(追記)
帯ギュッでもっとも過激なシーンは柔道着ブルマだろうというご指摘がありましたので、訂正してお詫びいたします。申し訳ありませんでした。僕もそう思います。